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生返事をしてそのまゝ登つて行く。
練吉はふつと思ひ出し笑ひをした。それは微笑と云ふよりは、気の好い、何だかすべつこい、いくらか相手を軽蔑したやうな表情だつた。
「一体どうしたというのだ。」
「かりに、おれが真正面から反抗的に出て、それがために住みにくくなつたとしても、同じことだ」
「本当も本当でないもありやしませんよ。財産譲渡無効、その返還を請求したのだよ」
「さうです。――どうかなさつたかね」
「さうよ。てめえはその大将だらう」
「もう遅いんですよ、おぢいさん。泊つてつたらどうです」
半之丞の話はそれだけです。しかしわたしは昨日きのうの午後、わたしの宿の主人や「な」の字さんと狭苦しい町を散歩する次手ついでに半之丞の話をしましたから、そのことをちょっとつけ加えましょう。もっともこの話に興味を持っていたのはわたしよりもむしろ「な」の字さんです。「な」の字さんはカメラをぶら下げたまま、老眼鏡ろうがんきょうをかけた宿の主人に熱心にこんなことを尋たずねていました。
「いや、挨拶まはりですよ。どうぞよろしく」
と、練吉は房一の方をふりむいた。
他に通る人とてはない、この広濶な坂の一本路で、二人はいやでも顔を見合はさずにはいられなかつた。近づいて来る自転車の車体には房一の往診用の黒革の鞄と同じ格好のものがとりつけられていた。房一には相手が誰かといふ見当が今は疑ひなくついていた。恐らく、先方にも房一が判つたにちがひない。
「をかしな男だな」