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「きさまか、鬼倉ちふのは」
「あれらしいのよ」
「ふむ、ふむ。――どなたでしたかね。お名前は?――ふむ、ふむ。――住所は?いや、字あざはどこでしたかな――ふむ、ふむ」
と、父親の顎のあたりに又目をつけた。
「さうです、一寸」
だが、その間にも土手の押問答はつゞけられた。
「もうこんなに暗くなつているのにね、何してるんでせう」
房一は刃物で突く恰好をしてみせた。
房一は目を上げて注意深く道平を見た。
房一は患者の前にもどつて来た。
と、いきなり突きを喰はされた練吉は、神経的にさつと青ざめながら、反問した。
さう呟くと、小谷は追鮎の力を試すやうに竿を高く上げてみた。彼のきいきい云ふ金属性の声は、こんなひとり言のときでも絶えず房一に向つて話しかけたがつているやうであつた。
房一は早くから競馬を見に行つていた。観覧席で相沢に会つたので挨拶した。訴訟の話を聞いた頃からずつと会はなかつたのである。相沢はあの特長のある黒味のひろがつた目で、やはり馴れ馴れしげにぐつと身体を近寄せて房一を眺め、彼の馬が来ていることを教へた。席が混んでいたので、それきり傍へ寄る機会がなかつた。休憩のとき、葭子張よしずばりの便所へ立つたかへりに、ちやうど相沢が向ふからやつて来るのにぶつかつた。彼はカーキ色の乗馬ズボンに拍車のついた黒革の長靴をはいていた。歩いて来るときに、その拍車が鳴つた。